2012/04/08

ダイエット体験!(5)

5.「欲望」と「欲求」について

岡田斗司夫氏のダイエット理論における白眉といえば、この「欲望」と「欲求」の違いを記述した箇所(新p.176)であろうと個人的には思うのですが、実際にお読みになった方は、どのようにお感じになられたでしょうか?

この話題は「人間と動物とはどこが違うのか?」という古代からの哲学的な諸問題と関係しています。より直接的な繋がりとしては、ヘーゲルの「精神現象学」(及びその読解を試みたアレクサンドル・コジェーヴの思想)から、ラカン派精神分析(besoin / desir)へと展開していくのですが、おそらく岡田氏はそのあたりの議論に精通されているものと思われます。

どういうことかというと、動物は「欲求」しか持たないのに対し、人間は「欲求」に加えて「欲望」を持つ。そして動物的な「欲求」とは何かが欠乏した時に生じるもので、その欠乏が満たされれば解消される一方、人間的な「欲望」には限りがなく、どこまで行っても満たされることがない、といった話です。

食欲に当てはめて言うならば、岡田氏が指摘するように、「欲求」は体が食べたがっているもの(=身体的食欲)であり、「欲望」は頭だけが食べたがるもの(=心理的食欲)ということになります。なので、その個体が満腹になり「欲求」としての食欲が飽和した状態になっても、「欲望」としての食欲は、TVのグルメ番組の美味しそうな食べ物に反応して「今度食べに行きたいな」などと思わせてしまうわけです。

かつてのように、人間の主体性が無条件に礼賛されていた時代には、「人間は欲望を有するが故に、動物とは違って、生産的な活動を行う優れた存在である」とされていましたが、20世紀後半において「いやいや、そんな単純な話でもなさそうだ」と認識が変遷していった過程と経緯はさておいて、21世紀に入ってからは「ダイエットに成功したければ、人間やめて動物になれ!」などと誤解されかねない理論(笑)が喧伝され、さらにその思想的源泉が自分にあると知ったならば、ヘーゲルも草葉の陰で驚愕するに違いありません(笑)。

それはさておき、個人的な体験に話を戻せば、毎回の食事に際して感じる個々の食欲は、どうやら「欲求」の部分と「欲望」の部分が、その都度ごとに様々な比率で入り交じった状態になっているのではないかと感じるようになりました。そこで、食事の度に欲求と欲望とを上手く分離して、前者のみを満たしたところで食事を終えれば、余分なカロリーを摂取せずに済むのではないか、と考えたわけです。しかし、身体的な欲求と心理的な欲望とを分離すると言っても、実際どうすれば良いのでしょうか?

ヒントになったのは「満腹メーター」(新p.186)の解説でした。この部分を自分なりに解釈すると、「空腹とはまず心理的な欲望のレベルで発生する。しかしその段階では、実際は身体的な欲求は生じておらず、さらに空腹感が進んで生物学的なカロリー欠乏の状態になって初めて、欲求のレベルに到達する。そこまで待ってから食べ始め、カロリーが満たされたら、そこで食事を終えれば良い」ということになります。でも本当にそんなことが出来るのでしょうか?(笑)

そこで、次の方法を試みてみました。まず、空腹を感じたら、そこから水を飲みながら15分間食事を我慢してみます。すると、欲望による空腹感の場合は、この15分間で消失もしくは軽減されるのに対し、欲求による空腹感の場合、15分後はさらに強まっていくことが体験的に分かってきました。また、食事をする場合には、まずテーブルの上に並んだ食べ物を全て半分ずつ食べ、そこで15分間食事を中断します。15分後に再開してからは、今の自分は満腹メーターのどの辺りだろうかと考えながら、なるべくゆっくり食べて「レベル6ぴったり」(新p.189)の感触を探します。

15分という時間は短いようで意外に長く、食事の度にこの方法を実行するのは難しいのですが、この長さは、自分が過去に禁煙した時の経験を応用したものです。(3)の回で「離脱症状」について書きましたが、ピークの持続時間が大体15分くらいなので、心理的な欲望に起因する空腹感も同様だろうと考えて試みたところ、概ね予想通りであり、水を飲んでいるだけで空腹感が消失してしまうことが何度もありました。そんな実験を繰り返すうちに、徐々に欲望と欲求の違いが実感として分かってきた次第です。

・・・ということで、ここまでは岡田氏のダイエット理論の全体を、行動療法的な知見や思想的な背景を基にして、自分なりに解釈あるいは再構成をしてまいりました。もちろん、岡田氏の本を素直に読めば、実際のダイエットに必要なノウハウは十分に得られます。にもかかわらず、一見しただけでは読み過ごしてしまいそうな箇所に重要な示唆やヒントが含まれていることを強調すべく、込み入った理屈を交えて個人的な体験談を綴ってみた次第です。総論的な話は今回で終わりにして、次回は各論的な事柄を具体的に述べて最後を締めくくりたいと思います。