2026/03/29

覇王別姫

 

今年も間もなく終わろうとしておりますが、この一年間に観た映画や読んだ本のことなどを、ぼんやりと思い返しておりました。

映画では、封切りを見逃してしまった作品も多いのですが、やはりこれほど評判の『国宝』(李相日監督)を観ないわけにはいくまいと思い、少し前のことになりますが、映画館まで足を運んで参りました。

友人たちからも聞いていた通り、実に見事な作品で、どの場面も丹念に撮られていることが伝わってきました。とりわけ歌舞伎の舞台シーンなどは、リハーサルに費やしたであろう膨大な時間や、精緻なカメラワーク、編集に要した労力を想像するだけで、気が遠くなるほどです。

しかしながら、鑑賞中に一点、どうしても気になることがありました。以前に観た李相日監督の旧作『フラガール』でも感じたことなのですが、顔のクローズアップの挿入が(個人的には)不自然で、「ない方が良いのではないか」という違和感が拭えないのです。本作の吉沢亮さんも、旧作の蒼井優さんも、並々ならぬ時間をかけて舞踊やダンスを習得されたはずですが、その渾身のパフォーマンスの最中に、唐突に顔のアップが差し挟まれると、演者の身体全体が発する熱量をカット割りが分断してしまっているようで、どうにも惜しい気がしてなりませんでした。

そんな瑣末なことを考えている間に上映が終わってしまったのですが、映画館を出る頃には「これはもう、帰宅したら『さらば、わが愛/覇王別姫』を見直すほかあるまい」と決心し、実行いたしました。 1993年に陳凱歌監督が発表したこの名作を、いつどこで初めて観たのかは全く記憶にないのですが、DVDで何度も鑑賞し、今回改めてAmazon Primeで観返しましたけれども、脚本・キャスト・画面の細部に至るまで、その圧倒的な完成度に打ちのめされてしまいました。舞台こそ京劇ではありますが、幼馴染の役者二人の数奇な運命を描く物語は、『国宝』とも重なる部分があります。

……と、ここで本作を紹介しようと少し調べてみたところ、なんと李相日監督自身、学生時代に『覇王別姫』を観て衝撃を受けた経験が、歌舞伎をテーマに映画を撮りたいという情熱の原点だったと明かしているではありませんか。なーんだ、そうだったのか、やっぱり!! 監督が目指した地平がそこにあったのなら、もはや私が野暮な比較をする必要はありません(笑)。

李監督もまた、並大抵ではない労力を費やして『国宝』を撮り上げられたのでしょう。さはさりながら、個人の好みを言えば、結果的に今年最も印象に残った映画が(再読ならぬ再鑑賞の)『覇王別姫』になってしまいました。自分の好みの変化のなさに苦笑してしまいますが、来年もまた、何度も観返したくなるような素晴らしい作品に出会えることを願っている次第です。

追記:以上の投稿を昨年末に書き上げていたのですが、なんとアップすることを忘れていることに今頃になって気が付きました。今更な感じもしますが、自分の備忘録を兼ねて投稿しておきます。