3.離脱症状をいかにして克服するか?実は、自分の場合は過去にタバコをやめた経験があるので、離脱症状がどういうものか馴染み深い(笑)のですが、一般的には、絶えず悩まされ続ける類いのものではなく、何かの折に発作的な渇望感として襲ってきます。面倒なのは、自分の心の内部で「依存している自己」と「依存から脱却したい自己」とが様々な論争や葛藤を繰り広げることで、前者は何とかして依存行為を再開させようと色々な誘惑をしてきます(笑)。後者の自己がこの戦いに真正面から立ち向かうと、最終的には前者の自己が勝利するという残念な結末(苦笑)が待っていますので、これを切り抜けるには「考えるのを止めて、他のことに気を向ける」のが一番だと経験的には思います。すると大概15分程度で発作が収束することが多いようです。
ところで、禁煙に伴う離脱症状に比べて、食事依存症による症状は、克服に困難な部分があります。というのは、タバコは人間が生きて行く上で不要な物なので、きっぱりと止めてしまえば良いのですが、食事は人間が生きて行く上で不可欠な行為なので、止めるわけにはいかないからです。つまり、ダイエットとは喫煙と禁煙を同時に実行するようなもの(笑)であり、その点に難しさの本質があるように思います。この問題に関しては、岡田氏も「食欲には、頭と身体の二通りがある」(文p.130)と部分的に触れていますが、これについては回を改めて詳述します。
話を元に戻しますと、離脱症状の克服の参考にするため、岡田氏が「メンタルなケア」(文p.109)として実行した内容を改めて読み直してみました。すると「私はウエストが10センチ減るたびにベルトをハサミで切って、しばらくはその切れ端をみてニタニタ笑っている」(新p.152)という記述が、ヒントになるのではないかと思い始めました。
どういうことかというと、要するに彼は「食事で得られる快楽よりも、痩せることでより多くの快楽を得られる」ように、意識的に自己改造を行っていたわけです(笑)。ある行為に依存している者を、その行為を止めることに依存させること。これは例えば買い物依存症の人を貯蓄依存症(?)に変えるようなもので、依存症の治療としてはある意味で究極の方法であり、それを実行した岡田氏の頭の良さに心底感服してしまいました(もっとも、これが行き過ぎて拒食症になっても困るのですが)。
すると、「ダイエットに関して、辛いことより楽しい思い出の方が多い」(新p.8)とか「成功するダイエットは楽しい」(新p.29)と岡田氏が繰り返し述べている理由が、ここにきてやっと理解できました。体重・体脂肪率が減ったときの高揚感や、レコーディング記録とかベルトの切れ端を見てハイになっている気分を意図的に反復・強化させた結果、痩せることで脳内報酬系を作動させられるようになった岡田氏にとって、ダイエットが楽しい思い出なのは当然なわけです(笑)。
そう考えると、たとえば「健康のため」といった真面目な動機ではダイエットが長続きしない理由も分かります。つまり、余程の健康オタク(?)でない限り、普通の人にとっては健康に良いということだけでは脳内報酬系が働かないので、離脱症状の辛さを乗り越えることが出来ないからです。ダイエットを続けるためには、その動機が自分をワクワクさせてくれることが必要、というわけです。
以上から、離脱症状を克服するには、別の行為によって脳内報酬系を駆動させれば良いということが分かりました。こんなことは改めて理屈っぽく説明するまでもなく、楽しいことに没頭していると空腹を忘れてしまうのは誰もが経験的に知っている話です。にもかかわらず、岡田氏が何度もダイエットは楽しくあるべきだと繰り返すのは、理想論として無責任にそう言い放っているのではなく、そうしたメカニズムこそが依存症の治療成否の鍵を握っていることを体験的に学んだためだと思います。
・・・というわけで、自分の場合も少し体重が落ちるたびにYahoo!オークションで服を買ったりしました(さらに痩せるつもりだったので新品を買うのがもったいなかったから(笑)です)。あとは、仕事帰りにジムで泳いだり、映画館に行ったりもしました。帰宅途中というのは最も空腹感に襲われる時間帯の一つなのですが、泳いだり映画を観たりして他のことに没頭すると、その最中はもちろん、その後も空腹感の軽減された状態が持続することが何度もあったからです。一方、自宅で好きな本を読んだり音楽を聴いたりDVDを観たりするのも効果があるかと思いましたが、台所が近くにあると気が散って集中できませんでした。
いずれにしても、何をして時間を過ごすにせよ、自分は離脱症状の克服を行っているのであり、数週間の後には必ずこの辛さを突き抜ける日が訪れると信じ続けることが重要と思います。この辛い状態がエンドレスに続くのではと不安になると、ダイエットそのものを放棄してしまいそうになります。依存症の治療には必ず終わりがあり、楽になる日が絶対に来る。自分の場合は、そう思うだけで離脱症状を乗り越える勇気が湧きました。
そんな日々を過ごすうちに、岡田メソッドのもう一つのポイント、「私たちは、ついつい『意志の力で行動を変えよう』と発想してしまう。でも、実は効果があるのは『環境を変えることにより、行動を変える』ことだ」(文p.193)という指摘の重要性に気付き始めました。この話もまた長くなりそうなので、項を改めて次回に説明します。